経済が急成長するアジアの国・地域で、肥満や糖尿病など「欧米型」の健康障害が増え、医療費も膨らんでいる。英調査機関エコノミスト・インテリジェンス・ユニットのリポートによると、アジアの医療費は2017年までに21000億ドル(約230兆円)に達し、世界全体の24%を占める見通しだ。

 

同リポートは、アジアの国・地域の「収入の増加に伴い、教育水準も向上し、健康問題への意識が大幅に高まっている」と背景を説明する。

 

だが、収入が増えるほど、生活習慣病への罹患(りかん)率も増えている。心臓病や糖尿病などの慢性疾患は東南アジアの死因のトップで、世界保健機関(WHO)によると死亡原因の62%を占める。アジアの人々が豊かになり、欧米型のファストフード店舗などが増えたことで、脂肪や塩分、砂糖を多く含む食品の消費が増加。欧米に多く見られる生活習慣病が急増している。

 

■体重管理市場が急成長、医療ツーリズムも

 

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マレーシアの病院運営大手IHHヘルスケアのタン・シーレン社長兼最高経営責任者(CEO)は「経済の急成長や富の急増、中間所得層の発展は、どれも医療業界にとって好材料だ」と話す。同社は1月、ミャンマーのヤンゴンに現地パートナーと共同で250床の病院を設立すると発表した。総工費は7000万ドルで、20年に完成する予定だ。

 

ミャンマーの医療・教育システムは50年間に及ぶ軍事政権時代には軽視されてきた。だが、民主化に伴う経済発展で、今後は政府によるこうした部門への支出が増えると期待される。医療需要の高まりは、技術革新を促している。欧州ソフトウエア最大手の独SAPはパートナーと共同で、血糖モニター、ウエアラブルの活動計測器、糖尿病の管理アプリをセットにした治療パッケージ「アキュチェックビュー」を開発。患者の血糖値を自宅で記録し、医師に送信できるようになった。

 

SAPの東南アジア法人のスコット・ラッセル社長は「ウエアラブルなどの機器で得た分析結果は、疾患を未然に防ぐ予防医療や生活習慣改善の研究に生かせる」と期待を寄せる。

 

アジア太平洋の体重管理市場も急成長している。市場規模は15年の47億ドルから、20年には36%増の65億ドルに拡大するとみられる。シンガポールの漢方薬局、余仁生(ユーヤンサン・インターナショナル)の担当者は「11年に漢方を活用した体重管理プログラムを発売して以来、これを求める患者は約60%増えた」と話す。

 

スポーツジムは地域全体で28000カ所を超え、年間売上高は推定143億ドルに上る。英フィットネス・ファーストはここ数年、インドネシアやマレーシアなど東南アジア全域に事業を拡大。シンガポールのトゥルー・フィットネスも04年の開業以来、順調に会員を増やしている。

 

これまで、欧米の富裕層向けだったアジアの医療ツーリズムも、最近は中国やインドの中間層がタイやシンガポールなどを訪れるケースが増えている。米調査会社フロスト&サリバンは、アジア太平洋の医療ツーリズム市場が19年までに年平均16.3%増え、2047000万ドルに達すると試算している。

 

IHHのタン氏は、ミャンマーの富裕層は医療ツーリズムに年間45000万ドル近く費やしていると指摘。同社はこうした旅行者をヤンゴンに設立する病院に取り込みたいとしている。

 

(シンガポール=ジャスティナ・リー、サイモン・ラフニーン)

[日経産業新聞2016519日付]